今年の8月は、全くと言えるほど夏らしくありませんでした。関東では連続3週間以上も雨の日が続き、日照時間も例年より大幅に短いままに、今年の夏は終わってしまいました。そのせいか、秋にミンミンゼミが鳴いています。盛夏を過ぎてから鳴く声は何となく寂しく、時期を逸しても是非なく羽化する昆虫の憐れを感じました。
そんな時期ですが、庄内の米農家の板垣代表愛用のLINEに、恐る恐る今年の作柄を尋ねると「順調そのものですよ!」と、柄にもない標準語の、思いのほか元気な返信があって、大いに安堵しました。この夏は、山形に行くことはあっても、この農家には7月下旬に1度しか行けなかったので、田んぼが心配だったのですが、これで救われた思いがしました。
まだまだ油断できませんが、収穫の時期を迎える前に、3か月ばかり時計を巻き戻して、溜めてしまった写真を眺めながら、今年の夏の初めの圃場回りを、断片なりとも記録しておきたいと思います。
5月。田起こしと代かき
農繁期も本番を迎えます。田起こしと代掻き、田植え。そして除草の日々が始まります。
ところで、本来は種々雑多な植物が生い茂るのが自然の習い。しかし農業はモノカルチャー。水田では稲だけを育てたいと考えます。だから、雑草との格闘。除草が様々な工程を通底する作業のようです。
田起こし
田起こし(耕起)は、土の塊を細かく砕き、土を乾かします。土に空気を混ぜ、微生物の活動を活発にし、有機物の分解を促進します。雑草の除去の効果もあります。
代かき
代かきは、田んぼに水を引いてから行います。トラクターに取り付けるアタッチメントを田起こし用から代かき用に交換し、水田の中を走り回ります。するとアタッチメントが水田の土をドロドロに練って、粘土粒子が土の隙間を塞いで、水漏れを防止するのです。更に、田んぼの表土を平らにならすので、田植え機を扱い易くする効果もあります。丁寧な代かきは、雑草を生えにくくするともいわれます。
除草
稲作の作業工程で、大きく負荷が減った工程に、除草作業があります。除草剤のおかげでしょうか。ところが、有機栽培や自然栽培(自然栽培とは、農薬や化学肥料を使わないのは勿論のこと、有機肥料を人が農地に加えることさえも行わない、つまり完全に自然の栄養循環を信頼した農法だと理解しています。)を行う農家では、除草剤は使いませんから、勢い除草作業の負荷が大きいことになります。夏の除草作業は重労働です。
しかし農家も工夫をしている。出羽庄内特産では、雑草が生えないように紙マルチ(mulch:根覆い)を田面に敷き詰めます。自然に分解する紙マルチです。でも紙マルチを敷く作業などで2週間も休みがない状態が続くと、若手でもかなり疲れた様子を見せているそうです。
昭和40年代から除草剤が普及しはじめて、除草作業の負荷が大きく改善しています。これでは除草剤が普及する訳です。代かきで水中の土の表面を平らにし、稲の苗の根っ子を土中深く植えるのは、除草剤の層が土の表面にできたとき、その薬の層に稲の根っ子が触れないようにするためだそうです。
でも除草剤などの農薬は、何となく生体に悪そうな気がします。昔、子供の頃、水田に裸足で入ったとき、足の指の間をにゅるりと粘土が通過するとき感じた気色の悪さを思い出します。そういえば、ここの農家の方も有機栽培を始める以前は、普通に農薬を使っていましたが、農作業で体調を崩したと言っていました。有機栽培を取り入れてからは頗る元気だとも言っていました。
この時期、いつもは海にいるカモメを田んぼで見かけました。ミミズなどを漁りに来るそうです。珍しい光景ですが、これもひょっとしたら有機栽培のおかげでしょうか?
さて、雑草の繁茂を防ぐ紙マルチ。こいつは田んぼで次第に分解されます。そして、稲が生長して日陰をつくり、そのせいで雑草が生えにくくなる頃には、水田の微生物によってほぼ分解されて無くなってしまうそうです。
6月。山間部の田植えと、畑の豆まき
暑い日と寒い日が交互にやってきてからだがおかしくなりそうな季節です。平野部に続いで、今度は中山間部の田植えです。五十川(いらがわ)という集落の棚田です。中山間部と書きましたが、実は日本海のすぐ近くです。
昨年末に開墾した柿畑は、大豆畑にするそうです。今、だだちゃ豆や秘伝豆などを播種しています。収穫は稲刈りの頃だというから、晩生種の大豆です。もちろん無農薬栽培です。
因みに7月の終わりに訪ねると、大豆がスクスクと育っていました。初年の収穫がどんなものか、見てみたいと思います。
石巻の農家の方から聞いたかどうか、自然栽培の農地の地温は少し高いから、冷夏にも強いそうです。また、自然栽培の稲は、日照不足でも、ちょっと日が照れば上手く実をつける。まるで日照不足が解消するタイミングをじっと待っているようだとも。
植物は自ら出穂期を知る。生き物の英知を感じます。そうであれば、私の近所のミンミンゼミも、敢えて秋まで待って成虫したのかも。昆虫の憐れを思う前に、生き物の利口さに感嘆すべきだったのかも知れません。
いよいよ季節は秋に移行します。
最近、自宅のプランターのキュウリを抜きました。素人の、モノマネ栽培です。茎たけは随分高くなっていましたが、驚いたのは根の張りです。その広がりたるや!
私たちは樹高や草丈に目が行きますが、土中の根の広がりはついつい忘れてしまいます。植物は土のこともよく知っている。私たちは土を面積と地価でしか知ろうとしない。土にもっと注目しなければと自省しつつ、今回のレポートを終わります。