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Rice paddy Support business JPEN

多様な農法が共存する今

この農家の代表である板垣氏の父親は、祖先から連綿と続いてきた農家を継承し、慣行農法(当地での、一般的な農法)によって米を生産し、農協に販売を委託し、生計を立ててきました。現在、齢80を越えて尚かくしゃくたるお百姓さんです。板垣氏の先代です。
その息子である板垣氏は、15代目板垣弥兵衛を名乗り、十数年前に有機農法に軸相を移し、農家を有限会社に衣替えして代表に就き、自ら耕作し、自ら販売に勤しむ生産者です。齢50後半。この農家の当代です。
板垣氏のご子息は、農業で身を立てることを決心し、農業の苦労を引き受ける決意をもった若者です。齢30前半。この農家の次代を担うことを期待されている見習いの生産者です。
その3人が一緒に祝う正月は、今年の豊穣を祈る行事です。
去年はなかなかよい収穫だった。流通の評価も高く、販売も好調のようです。今年もこの勢いを継いで、よい農業をしたい。そういう希望が満ち溢れた新年会です。

板垣氏が有機農法を始めた当初は、近隣からは距離を置かれ、身内の理解も十分ではなく、本人は詳しくは語りませんが、辛い日々が続いたと聞いています。農法や、ひょっとしたら販売方法についても、先代との間で葛藤があったのだろうと想像します。けれども、それは既に過去のこと。今は、先代、当代、次代の三世代で農業を営んでいます。
先代はよく当代の新農法を許容したことだと思います。そして当代たる板垣氏も次代の仕事の幅を許容して行くのだと思います。,/

当社は、地元のベンチャー企業の協力を得て、この農家をサポートしたいと思っています。三世代の紐帯が健在であれば、やる気が倍増します。去年の末は在庫の棚卸しをしました。今年の初めに作付けと販売の計画を策定する手伝いをします。税金の相談に乗り、新しい販売方法を試行しています。今は未だ着手したばかりですが、当事者である農家が、これらを必要なサポートだと認識して、受け止めてくれるなら、やり甲斐もあろうというものです。

自然農法、有機農法、慣行農法。農法にはいろいろあります。ウェブを検索すると、他にも、有用微生物(Effective Microorganisms)を使うEM農法という農法だって見つかりました。
農法について、機会があるたびに、人の意見を伺ってみるのですが、今はまだ王道はないようです。どの農法も、人が支え、人を支えてきた農法です。良い面もあれば課題もある。どれかに過度に拘泥することは、教条主義になる。今は、自分の農法を信ずれども、他の農法を否定せず。そういう態度で臨む時期なのだろうなと思います。

板垣氏は、有機農法の課題をよく理解しています。過剰な有機肥料が肥毒の原因となることや、動物性の肥料はたとえ有機肥料といっても問題があることなどを話してくれました。こういう生産者であればこそ、我々は期待をしているのです。

雪下に地力を貯める田

地球の地表を覆う土の厚さは30センチから1メートルくらいであると何かの本で読んだことがあります。その土はどうやって出来るかということですが、わずか2.5センチの表土を作るのに、侵食と風化が大地に作用し、水と乾燥、凍結と融解が岩を砕き、植物の根が岩を割り、微生物が植物を分解して500年かかり、ミミズが働いて1世紀から2世紀かって表土ができるという説があります。

しかし、そんなに時間がかかってできた土も、人為であっという間に侵食されてしまいます。貴重で、庇護すべき土なのに、私たちは土についてあまりにも無関心であるように思います。
しかし、この土こそ、作物を育てるベースなのです。土が消耗したり、逆に栄養過多になったりすると、良い作物が出来なくなります。
土を酷使し「反収600キログラムの米を10年間生産する田」と、土を庇って「反収300キログラムの米を20年間生産する田」と、いずれが当地に適切か。そういったことも考えていかなければなりません。

板垣氏は、土をよく見ています。匂いを嗅ぎ、時には口に入れて味をみます。田圃の雪の溶け具合から土壌のコンディションを考えたりもする様です。上流の広葉樹林からの水流が土に加味する栄養を考えたりもします。土の重要性を、彼の感覚と経験が理解しています。最初は、我流なのか受け売りなのか知りませんが、今や土の重要性について、氏はこれを確信するに至っています。我々も今年は、土に着目して、庄内をレポートして行こうと思います。

冬の庄内平野。 地面を覆う一面の雪の層が、保護膜になって強風による地表の浸食を防いでいる。人知の及ばぬところで、田の土は、雪の下にあって、地力を養っている。今のところ、これが良い米が育つ土壌を維持している。
そんな風に思えます。

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