庄内平野の起源
山野の雪が融けて、土があらわれる三月の庄内平野では、ゴールデンウイーク明けの田植えに向かって、種もみの準備が始まります。そして今年も、田んぼの仕事がいよいよ本格的に始まります。
今、春が来て、赤川は今年も、期待された水量を流しています。
この川は月山水系の水で、研究者によると、意外と肥料分が少ない河川だそうです。これに比べて最上川は、酸性度の強い支流の合流もあって、ミネラルを豊富に含んだ水を流している。この2河川の流域に庄内平野は形成されています。
流域の上流部には、大体6千万年前から2百万年前に出来た第三紀の地層があり、堅い岩盤を形成しています。因みに、この地層に見られる頁岩とは、シュールガスのシェールのことです。先ほど「堅い岩盤」と書きましたが、庄内平野では月山などの火山噴出物が広く堆積していて脆弱で、その上、地形が急峻で、地滑りや崩壊が発生しやすいところだそうです。
一方、中下流部に広がる庄内平野は、今から1万年くらい前に始まった第四紀の地層で、沖積世(今は、完新世というそうです。)に属する地層であり、最も新しい地層です。ここに水が流れ沖積平野を生んだ。つまり庄内平野は、最上川、赤川などの河川が生み出した沖積平野なのです。沖積平野は一般に肥沃です。庄内平野も然り。昔は十数年に一度とかの洪水が土壌に養分を運び込み、河川は今も栄養分を運んで来ます。そうして土は肥え、南北100㎞、東西40km(面積2,400㎢)の庄内平野に370㎢の水田群が展開されているのです。私が初めて庄内に来たのは2015年3月20日ですが、いまだ白雪を見せる遠くの山並みの、その前景の広大な空間に、田んぼが黒々と、見るからに豊穣の色を見せて千畳万畳と拡がる光景に、米どころとしての自信と、都市部の水田には見られない地力の野生を覚えたものでした。出羽庄内特産は、この地力の野趣の恩恵を思い切り受けて、この地で米を作ります。そして、今年も種もみの準備を始めたわけです。
それは大げさに言えば、第三紀に誕生した被子植物の一科であるイネを、第四紀に誕生した人類の子孫が栽培する営みが、今年もまた始まったということです。
種もみの準備
さて、3月は種もみの準備です。越冬したイネの種子から、発芽しやすそうな種子をえり分けて今年の種もみとします。そして4月にはこの種もみを発芽させて、1か月かけて苗にまで成長させ、5月の田植えに備えるのです。
この農家の種もみの準備は、だいたい次の手順です。
先ず、種もみを塩水に漬けて、沈んだ種もみだけを選択します。
種もみの発芽や初期の成育には栄養源としての胚乳が必要ですが、この胚乳が多く詰まった種もみほど重たいのです。だから塩水に沈む。また、いもち病などにかかっている種もみは逆に軽い傾向にあって、塩水での選別は、これらの種もみを取り除く効果もあるそうです。
こうして選択した種もみを60度くらいの温湯に浸してお湯の熱で殺菌します。殺菌剤は使いません。この農家の矜持です。
それから水につけてクールダウン。こうして用意した種もみを、やがて、ぬるま湯に20時間くらい漬けてやると1mmくらいの芽が出揃うという訳です。
この発芽した種もみは、苗代に播種されて、田植え用の苗に育ちます。
出羽庄内特産のみならず、自然栽培や有機栽培を行う農家は、このようにして種もみの準備をしたりします。
稲穂の実る国土
稲はもともと南方の植物だから実をつける夏は高温が望ましいし、日照時間も長い方がいい。しかし、美味い米には昼夜の寒暖差が大きいことが望ましい。また栽培期間を通じて水がたっぷり供給され続けなければならないから、山の雪が春から夏にかけてゆっくり融ける土地がいい。こういう条件に庄内地方はぴったりです。そうして、庄内では5月に田植えをします。
同じように、日本各地の水田では、その土地の気象条件や自然環境に合わせて田植えを行います。遙か南方の石垣島では1月には田植えが始まって5月の連休明けにはもう収穫を迎えるようです。そして二期作をやる。北海道の田植えは5月中旬から下旬。また、国内の幾つかの地域では、気温や日照条件の他に、水利の順番待ちなどで6月に遅い田植えをするところもあるそうです。
出羽庄内特産の昨年の作柄は良かった。さて、今年はどんな収穫を迎えることが出来るでしょうか。雪がとけて土があらわれる三月。田んぼの仕事が本格的に始まりました。