オフィスマルベリー

腐植によって、土を植物の生育に適した構造に変える。

「実は毎日のように土に触れている農家も、『土とは何か』をわかっていないのが現実だと思います。土の改良に熱心な農家も、長年の勘を頼りにしている。何かを試すにしても、結果が出るには一年のサイクルを見なければならない、気の長い仕事です」。そう語るのは、鶴岡市で有機農業を営む月山パイロットファームの代表・相馬大氏である。 現在、相馬氏は特殊な手法を用いた「腐植」によって土の構造を変える試みをしている。「水や、窒素・リン酸・カリウムなどの養分をしっかり保持でき、しかも放出もしやすい土に変えることで、植物である農作物が生育しやすい環境を整えているんです。もともと日本の土は養分との結合力が強く、離さない。そのため、特にリン酸が作物に吸収されにくい構造でした」。腐植をつくる際に、相馬氏は畜糞と木質の十分な発酵を促すために「ある工夫」を加えているという。それにより、通常よりも酸が増加し、有機物が微生物によって分解されやすくなる。そして、物質がキレート化した時点で腐植を土に混ぜる。結果、腐植が核となり、土壌に大きな構造物を生み出すわけである。

「キレート」はギリシャ語で「カニのハサミ」という意味。キレート化とは、酸の作用によって多くの養分で金属イオンを「挟み込む」構造に変容させることをいう。「私が採用している方法によって微生物が増え、発酵の度合いが飛躍的に高まり、キレート化が進みます。豊富な養分は土中で他の成分と化合物をつくりますが、土中には残存しにくい。いわば、植物が養分を吸収しやすい状態だと言えますね」。発酵の過程で、通常であれば60℃程度にしかならない堆肥が、80℃近い温度にまで上昇し、雑菌は死滅する。

相馬氏はこの「特殊な腐植土」を、畑10アール(1000㎡)あたり8㎥(8000リットル)を目安に混入し、複数の作物を育てている。「まず、発芽率が上がり、どの作物でも生育スピードが早まります。そして実付きが増え、サイズも大きくなる。味わいも増す。しかし、向き不向きもあるのかもしれません。たとえば枝豆では、生育スピードが早くなるため、タイミングを逃すとすぐに糖分がなくなってしまいます。通常より根も広く張るので抜くのも大変になる」。この腐植土づくりにトライして3年。目標とする機能をもった腐植土を実現するために、試行錯誤はまだまだ続ける必要があると相馬氏は言う。

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