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これまで六回に渡って連載してきた、『庄内Life Village Report』第一弾。水という自然の恵にフォーカスして、農業や漁業、人々の信仰や感情など、さまざまな角度から庄内という地域を見つめてきました。最終回となる本稿では、はじまりの季節でもある春の庄内を訪れ、改めて水の循環に想いを馳せます。水がどこからやってきて、どこに向かうのか。実に一年に及ぶ「水をめぐる旅」が、いよいよ締めくくられます。
春である。長い冬の間、平野を覆っていた雪が解け、鮮やかな黄緑色に変貌した畦道が、田んぼと田んぼを区切るベルトのように、縦横に走っている。まだ水が引かれていない田も多く、ぱっと見には畑のようにも映るものもある。また一方で、まさに田植えの真最中という田もあり、トラクターを運転する人、苗を運んでいる人も見られる。5月の上旬から中旬にかけて、この地域では一斉に田植えが行われるのである。
庄内の米農家にとっての春は、稲を発芽させ元気な苗に育てることに加え、土のコンディションを整える時期でもある。冬の間眠っていた田んぼの土を掘り起こし、生き返らせる「田起こし」。土がぬかるむ程度に水を張り、平らな状態にする「代かき」。それらが終わって、ようやく「田植え」ということになる。
これまでにも何度かお話を伺った、有限会社出羽庄内特産の板垣弘志氏も、「田植えイベント」に備えて、前日までに苗代から15cm前後にまで育った苗を運び出してきていた。この田植えイベントには、庄内エリアからだけでなく、東京からの参加者も多数おり、秋の稲刈りとともに大きな賑わいを見せる。
「チ、チ、チ、チ」とどこからか小鳥のさえずりが聞こえる。はるか遠方にそびえる山には残雪が見える。日差しは穏やかだが、時折吹く風にはまだ「芯」のような冷たさが残っているのが感じられる。だが、田植えイベントに足を運んだすべての参加者の表情は、一様に明るい。大地に命を植えるという行為が、人々を言いようのない高揚感で包んでいるのがわかる。子連れの参加者も多く、幼い子らは田植えがはじまる前からそこら中を走り回っている。足音に気づいたのか、小さなアオガエルがピョンと水路に飛び込んだ。生き物にとっても、この時期は、胸踊るシーズンと言ってもいいのだろう。