オフィスマルベリー

山から田へと下りる水。その悠久のサイクルの一部として。

出羽庄内特産の田植えイベントに集まったのは、総勢約30名。ぬかるんだ土には、代表の板垣氏によって、「カタ」と呼ばれる円形の木枠を転がしてつけられたマス目状の目印がある。最近では珍しくなったが、田植機を使わず手作業で田植えを行うための準備だ。目印に沿って苗を規則的に植えることで、稲同士の風通しを良くするのである。

係の合図で、参加者は一斉に田に足を入れる。その瞬間30cmほどズズッと足が沈み、周囲から「きゃあ!」「おぉ!」という歓声があがる。腰をかがめ、束になった苗から3本程度を取り分け、それをマス目が交差した目印に押し込む。土はしっかりと湿っているが、表面には引かれた水はごくわずか。いわば泥のような状態だが、絶妙な粘度ということなのか、苗はしっかりと土中に下半身を据え、倒れそうにもない。そのことを確認して慎重に足を一歩踏み出し、また次の目印に苗を植える。

苗はこの後、数日ほどで活着(新しい根を出すこと)するとのこと。収穫は10月になる。除草剤を使わず、有機栽培や特別栽培を主とする出羽庄内特産にとっては、草刈りも重要な作業になるが、何と言っても、収穫までの間でつねに気を配るのは水管理である。時期や状況に応じて深水にし、浅水にし、稲の順調な育成を促進するわけだ。

赤川流域にあたるこの水田の水は、もとを辿れば月山にその端緒がある。あのブナ林をふところに抱える神秘の山である。ブナ林一面を覆っていた残雪は、早々に解けゆくだろう。そして地中に染み込み、濾過され、ミネラルを含み、川となって下へ下へと流れてゆくことだろう。山から川へ、堰へ、水路へ、分水工へ、そして水田へ。さらには大海原へと注ぎ、蒸発した水分は雨や雪となって、山へと還る。

実際にあの残雪が里を潤し、人々の暮らしを潤すのは、数百年先のことになるかもしれない。だが、豊富な水は自然の摂理に従って、山から里へ、海へと下りていくのが決まりなのだ。気が遠くなるほどの悠久のサイクル。だがその循環も、決して当たり前ではない。この土地の、この時間の一部として、時に「水」を畏れ、時に「水」を慈しむようにして、庄内平野の人々は数百年の物語を生きている。

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