水をテーマに紡ぐ、『庄内Life Village Report』の第一弾。三回目となる今回は、ホタルの放流、外来種の駆除、川漁体験など、「これまで」の庄内を維持・回復・継承しようとする大人たちにスポットを当てます。彼らがなぜ、その取り組みに力を注ぐのか。そして、子どもたちに伝えたいこととは—————。
ホタルを放流して28年。その背景にある水辺の変化。
初夏のごく限られた時期、その儚く幻想的な光は、暗闇の中にやわらかく灯る。ある光は一定の場所から微動だにせずに明滅を繰り返し、またある光は空中をゆっくりと漂う。成虫になって、わずか1〜2週間で寿命を迎えるホタルにとって、その発光は、仲間に自らの居場所を知らせるコミュニケーションの意味があると言われている。
かつて水辺で頻繁に見かけることができたホタルは、ある時代を境にして、急速に減少していった。庄内町風車村の村長である工藤時雄氏は、所有する車庫でゲンジボタルを養殖し、28年前から地域の二俣農村公園に放流をし続けてきた人物である。「ホタルが減った理由はいくつもあると思いますが、そのひとつは、水田における消毒です。農家さんとしては美味しく、清潔な米を生産しなければならないので、カメムシのような害虫を駆除する必要がある。ですが、同じく昆虫のホタルも死んでしまいます。また、現在の水田は土を掘った水路ではなくU字溝(コンクリートなどでつくられた、断面がU字型の排水溝)になっており、さらに9月になると水を堰き止めますので、ホタルの幼虫の餌となるカワニナが棲息できない環境になってしまいました」。
言うまでもなく農業というものは、自然のある部分を人為的に管理し、食物を得る営みである。動植物の生活と調和しながら、あるところまでは、互いに命を紡いでこられた。それが臨界点を迎えてしまうと、何かがバランスを失う。カワニナが減り、ホタルが減っているのは、その証左でもあるだろう。「ホタルを自然に生き延びさせるために水田の消毒を止めたり、水利権を無視して水を年中流したり、ということは現実的には不可能。だから、細々とではあっても、こうして私は『車庫ホタル』を育て、放流を続けているわけです」と工藤氏は語る。地元の小学生とともに、今年放流したホタルは500匹。ホタル養殖の後継者はいないが、その小さな光は、子どもたちの心に何かを残すかもしれない。それが灯り続け、何かのかたちで地元の風景に還元されることを、工藤氏は願っている。