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工藤氏とはまた別のアプローチで、水辺の維持・再生に取り組んでいる施設がある。鶴岡市自然学習交流館「ほとりあ」だ。約 7.7ha にもおよぶ広大な都沢湿地(みやこざわしっち)の管理が業務のひとつだが、実はここは、かつて水田だった場所。水害対策と農業用の貯水池としてつくられた大山下池(おおやましもいけ)に隣接し、周囲に比べても深田だったため、農業機械が入りづらい場所だった。さらに減反政策の影響などもあり、耕作放棄地となり荒れていたところを、低湿地再生の活動の場として市と市民が使用したのがはじまりだ。
野鳥、昆虫、水生植物の宝庫である低湿地を再生しようという、地域環境保全の試みと言えるが、 「本来の自然」を守るためには大きなハードルがいくつもあるという。「何と言っても外来生物の存在がとても大きいですね。
アメリカザリガニ、 ウシガエルが多く生息している。 ウシガエルはタンパク源の少なかった戦前に食用として、ザリガニはウシガエルの餌として輸入したもの。その後、それぞれ逃げ出して、野生化してしまったと聞いています」。そう語るのは地元大山地域在住で「ほとりあ」の施設管理スタッフである佐藤賢吾氏だ。やがて、戦後になると、ウシガエルは食用としての役割を終えた*。他の食物によって、日本人が十分にタンパク質を摂れるようになったからだ。 同じく、 ウシガエルの餌だったザリガニも放置された。皮肉と言えば皮肉だが、豊かな自然が守られた湿地は、外来生物にとっても最高の棲家になってしまったというのだ。
「ザリガニは水路を通じて、水田にも進出し畦に穴を掘ってしまう。農家にとっても影響があると聞いています」。
アメリカザリガニやウシガエルにとっての天敵は、 日本の水辺にはほとんど存在しない。ザリガニをウシガエルが捕食し、 ウシガエルを人間が食べていれば、 ある一定のバランスも保たれていたのだろうが、 それはもはや回復不能と言えるだろう。
「湿地の生きものを守りたくても、 まずはウシガエルやザリガニを駆除しなければならない。道のりは遠いですね。」と佐藤氏は嘆息する。
*「自然学習交流館ほとりあ」によれば、ウシガエルの導入目的には、食用に供する以外に、養殖し輸出して農家の副収入にしようという目的があったという。この試みは、昭和44年に米国シアトルで、日本から輸出された冷凍ウシガエルから基準値を超えるBHC(農薬(殺虫剤))が検出されたことで頓挫していく。国内の養殖業が衰退することで、管理されないウシガエルが増殖。生態系に影響を与えるようになったということである。