オフィスマルベリー

水をテーマに庄内という土地を、人を、継続して見つめる『庄内Life Village Report』第一弾。六回目の今回は、地域にとってもっとも厳しい季節である「冬」の庄内を訪ねる断章です。凍てつく寒風と、それが舞い上げる雪。激しさに満ちた、この風雪の季節こそが、やがて田畑を潤す雪解けの水を準備するという事実。冬の庄内を生きる人々の内面に焦点を当てながら、本稿を綴ります。

町全体を覆う雪と、その雪をなぎ払う地吹雪の季節。

間断なく降り続ける雪が、地表に積もる間もなく舞い上がり、狂ったように空中に踊る。樹木が猛々しい暴風にあおられ、一様に大きくかしぐ。積雪に目が行きがちだが、冬の庄内にとって、脅威となるのはむしろ「風」だ。日本海から吹きつける強風によって、実際の温度以上に体感温度は低く感じる。「肌が切れそうになる」と、現地に暮らす男性はその寒風を表現する。「厚手の靴下、ズボンの下にはタイツ、そしてブーツ。どれだけ着込んでも、寒いものはやはり寒いです」。

地元で「地吹雪」と呼ばれるこの雪と風の最凶タッグは、特にクルマを運転する人にとっては大きな障害となる。道路に引かれた車線の境界はもちろん、田んぼの多いエリアでは、どこまでが道幅なのかがわからない。数メートル先が見えず、急ブレーキを踏んでスリップすることもあるし、風にハンドルを取られることもある。「毎日のように、田んぼに横転したクルマを見かけます。他の雪国出身者でもこの地吹雪には驚くようですが、特に夜間の運転は地元の私にとっても恐怖です」。

昭和歌謡の『雪のふるまちを』は、作曲家の中田喜直氏が鶴岡市を訪れた際に見た雪の風景がモチーフだと言われ、鶴岡市内の公園には、美しい旋律を奏でるモニュメントが設置されている。曲調はスローテンポだが、実際の風雪は激しく、時として苛烈だ。鶴岡市に接する酒田市では、平野部でさえ数年前にひと冬で370cmを超す降雪を記録したことがあり、飛行機の欠航や鉄道の運休も珍しいことではない。

「庄内では冬期に気が滅入る人が増えると聞きます」と男性は語る。「一方で、冬は家族とゆっくり話ができる季節でもあるんです。この地域にとって冬は、自分を見つめ直す時間だと言えます」。人を、否応なく「内」に閉じ込める冬。もしかしたら庄内の人は、冬を迎えているのではなく、その時期が過ぎ去るのをただ見送っているのかもしれない。「内」に籠もり、過去を見つめ、未来を描く。庄内人の気質と気候に、深い関わりを見て取ることもできる。

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