オフィスマルベリー

新酒が告げる、冬からの解放の時。

立春の前後から、まさに最盛期を迎えるのが、昨秋に収穫した米を原料にした新酒づくりだ。毎年2月になると、庄内各地では「新酒まつり」が開催される。中でも人気が高いのが「大山新酒・酒蔵まつり」だ。鶴岡市郊外に位置する大山地区には、現在4つの酒蔵があるが、その日はできあがったばかりの自慢の新酒が一斉に人々に振る舞われる。当日は例によって朝から地吹雪だったが、2両編成の臨時列車「きらきらうえつ」は東京都心の通勤電車ながらの満員状態。ほぼすべての乗客が「新酒で酔っ払う」ことを本日の目標としているだけあって、妙な高揚感と一体感に包まれている。

「羽前大山」駅で下車し、行列に並ぶこと1時間。やっとひとつ目の蔵に入ると、すぐにお猪口に新酒が注がれる。にごりのない澄んだ味わいが口中にサッと広がり、たちまち身体が温まる。そして別の新酒が、また注がれる。ひとつの蔵に滞在している時間はおよそ15分程度だが、行列の間にさっさと打ち解けた人々は、酒の力も手伝ってすっかり旧知の間柄。「どこから来たんだ」「毎年来ているのか」とやっている。常連が多いのもわかる。ポケットに忍ばせた乾き物をツマミに差し出す人や、防寒のカイロを貼ってきたぞと、上着をめくって見せる人もいる。そして人々は、次の蔵へと向かう。

各酒蔵に加えて、コミュニティセンターや商工会ホールや商店街など、町をあげての盛り上がりを見せる「大山新酒・酒蔵まつり」。イベントは地吹雪や寒風をものともせず、お祝いムード満点だ。人々はすでに、これから訪れる春の気配を感じ取っているのだろう。舞い上がる雪は湿気が多く上着を濡らす。けれども、冬からの解放を告げる新酒によって、町中に活気が満ちてゆく。

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