オフィスマルベリー

『庄内Life Village Report』の第一弾。テーマは水です。時に人に恩恵をもたらし、時に人の脅威ともなる水。その物語は、数百年もの間、人々が畏敬の念をもって向き合ってきた森からはじまります。山、川、そして海へ。水の道を辿りながら、この地がいかにして自然と共存してきたのか、そして人々が、この先の未来に何を描くのか、見つめます————。

地元民が守り続けた、ブナの原生林。

湿った土を踏みしめる音が、あたりに響く。新緑に覆われているために、霧雨は、森の中にまでは入ってこない。けれど、一直線に天に向かって伸びる幹をよく見てみると、幾筋もの「水の道」ができている。ブナである。わずかな滴が葉をつたい、枝をつたい、幹をつたって、根が求める水分を確保する。高い保水力を誇るブナは、こうして自らの体内に、そして周囲の土中に、ふんだんな水を蓄えているのだ。

「ブナは成長が遅いんです。戦後、燃料となる木材を効率よく確保する必要に迫られて、日本中でブナの伐採が進み、成長の早いスギに植え替えられました。ここのように、ブナ原生林が守られている場所はとても少なくなりましたね」。そう語るのは山形県立自然博物園の真鍋雅彦氏。「ここはレクレーションを目的にした人工の公園ではありません。あくまでも地元民によって守られた、手つかずの自然を体感していただく場所。季節ごとの変化が楽しめます」。
ブナ以外にも多様な植物が繁茂する森。だが、帰化植物が繁殖することはないようだ。「人工的な自然であれば、外来種の侵入を防ぐために手を入れ続けることになりますが、ここまで自生の在来種が強く生き続けているような場所では、自然が自らを維持するために回復し続けます。商業ベースの施設と対極にあると言っていいと思います」。

歩を進めると、うねるように大きく湾曲した幹が立ち並ぶゾーンが現れる。「豪雪の影響です」と真鍋氏。最大6mにもなる積雪に耐え、生き延びてきたたくましい姿。その生命の躍動を感じるとともに、あくまでもこの地が厳しい環境に置かれていることも、また実感される。「この公園は雪のため、11月頭から翌年4月いっぱいは休園しています。開園になった5月に散策すると、一面の銀世界に、鮮やかな黄緑色の葉々が顔を出していて、とても可愛いですよ」。

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