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「農家の一部には、定期的に洪水があることで、養分が土に行き渡ると考えている方もいらっしゃいます。ただ、そんな悠長なことではないのも事実。田畑が一瞬にして消滅してしまうこともあるわけですから、『治水』が庄内の農民、住民にとって悲願だったことは確かです」と長南義信氏。「月山ダムは洪水から人々を守る『治水』というのが大きな役割ですが、他のダムでは『利水』を目的にしているものもあります。農業用水、生活用水の配分を担うものですね。水田地帯が広がる庄内平野においても、水をどう活用し、人々がどう共存していくのか、議論を重ねてきた歴史があります」。
雨や雪の多い庄内は、水の街でもある。豪雪地帯なので、確かに他の地方と比べれば、地下水の水源となる雪解け水は豊富にある。だが、近年は市街地が拡大し、地下水の水位低下によって、断水や給水制限が発生も生じることがあった。その中にあって、ダムは水を管理するための重要なツールのひとつと言える。ただし、「水を征服する」というニュアンスはそこにはない。長南義信氏いわく「川が川である姿を守るのもダムの仕事」なのだという。完全に水を堰き止めてしまえば、渇水のおそれも出てくる。そして何より、生物の生育環境が奪われることになる。「それぞれの地点で、つねにこの程度の水量は必要、というのを決めて、慎重に計算をしながら運用しています」。 123mの堤防によって貯水されている月山ダム「あさひ月山湖」の水量は、約6千5百万㎥。温暖化に伴う植物生態系の変化、エリア豪雨など、洪水をシミュレーションするための材料はますます複雑度を増すだろう。ダムは万能ではない。だが、「百年に一度の洪水を食い止められる」ように月山ダムは計算されているという。相手は自然。何が起こるかはわからない。ただ、それが「闘う相手」ではなく、「ともに生きる相手」になるよう、人々は今日も水と向き合いながら暮らしている。