オフィスマルベリー

数百年の後、成長したブナに馳せる想い。

「月山山麓湧水群」として日本の名水百選にも選ばれている、このエリアの天然水。一説には四百年もの時を経て残雪や雨水が湧き出したものとされるが、その間、長く土中に染み込み、ろ過され、適度にミネラルを含んだアルカリ性・軟水となる。その美味なる湧水は、もちろん地元の人々の水道水源にもなっているわけだが、多くの生物たちの恵みにもなっている。「沢には天然のイワナがいます。遊歩道からイワナが見られる場所は、国内でもほとんどないでしょう。森の中にはモリアオガエル、ヤマネといった希少生物も棲息しています」。

ちなみに、この森にはクマもいる。普段は森の奥深くで暮らすクマも、ブナの実が凶作になれば、食料を求めて麓近くまで降りてくる。しかし、ブナ以外にも豊かな自然によって充足しているため、「見かける程度で、人が襲われる心配はありません」と真鍋氏。「人との棲み分けがしっかりできている」のだという。

ガサッと音がして、視界を何かが横切る。少し遠くで野鳥が飛び立ったようだが、姿までは見えない。鳴き声の方へ目を向けると、開けた空の向こう側に、山の尾根が見える。羽黒山、湯殿山、月山。いまでも多くの信仰を集める出羽三山に抱かれるようにして、数百年以上の間、変わらずにある森。足元に目をやると、数センチに満たない、殻をかぶったままのブナの芽が吹いている。成木になるにはおよそ百年。幹回り3mの巨木になるのには数百年かかるという。もちろん、大半はそこまで育つことはない。巨木になっても、やがては風雪によって倒れゆく運命にある。生まれた空間には陽光が注がれ、そこに新たな芽が吹く。繰り返される悠久のサイクル。そのすぐそばにあって、庄内の人々は、この先の数百年をどのように紡いでゆくのだろうか。

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