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相馬氏がこの斬新な腐植土を知ったのは、数年前のことだった。それは、有機農法に取り組む一環で、腐植のために独自の方法論を導入していた広島の田邊圭一郎氏との出会いがきっかけだった。「田邊さんの畑を見学させてもらって、とにかく驚きました。こんなに育つのか!ということに加えて、まったく畑に無理をさせていない。その上、畑はもちろん腐植をつくっている養豚場までも、糞の臭いがしない。生産効率、地域資源の循環、環境配慮など、あらゆる意味で夢があった。強い興味を覚えました」。
かねてから、地域の連携によって持続可能な循環型社会をつくりたいと考えていた相馬氏は、庄内エリアの畜産農家に声をかけ、月山パイロットファーム版の腐植土づくりをスタートさせた。「腐植は鶴岡市の鈴木養鶏場に協力を得て、場所と機材を使わせてもらいながら仕込んでいます。田邊さんは豚糞を使っていましたが、鶏糞でも理屈は同じはず。木質は鈴木養鶏場に仕入れてもらった伐採木のチップのほか、酒田市からきのこ生産で使用した菌床の廃材を調達しています」。こだわりたかったのは庄内の生産者と手を組むこと、そして「廃棄物」を使用することだったと相馬氏は言う。「庄内は陸の孤島のような場所にありますが、地域の資源を循環させてきた伝統もあるはず。地元のゴミを宝物に変える。そのことには大きな意味があると思いました」。
だが、理想は掲げても、現実に周囲を巻き込むことは大変なことでもあった。特に畜産農家にとっては、排泄物を堆肥にするために発酵処理が必要になるなど、手間もかかる。本業以外のことに労力を費やしても、それがビジネスとして成立するかはわからないのである。「糞の臭いが消えることで、周辺との関係構築に役立つことや、経済的なメリットが出せることは、ていねいに伝え続けなければなりませんね。と同時に、大義を理解してもらうことも大切です。少しずつでも賛同者を増やしていければと思っています」。