オフィスマルベリー

伝統的な農法が、「藤沢かぶ」の味や歯ごたえをつくり出す。

国内林業が盛んだった頃、庄内エリアでも次々に木々が伐採されていた。新たに植林をしても大木が育つには数十年の歳月を要する。その間、限られた土地を有効活用しようと、伐採後の枯れ木や枯れ枝を燃やす「山焼き」を行い、その山の斜面に栽培されたのが「藤沢かぶ」だった。「山焼きによって除草や殺菌殺虫を行い、残った灰が肥料になる。山焼きではなく通常の畑で育てると、味わいや歯ごたえが悪くなります。また不思議なことに、湯田川ではない場所でもトライしたそうですが形が変わってしまったそうです。単に品種を保護するだけではなく、伝統的な山焼き農法も含めた『藤沢かぶ』を復活させたんです」。

だが、林業が衰退し、所有者さえ判然としない山が増えた今日、山焼きのできる場所を確保するのもひと苦労なのだと伊藤氏は語る。最適な収穫のためには、最適な場所を探し、最適な土をつくるというローテーションづくりが欠かせない。「根瘤病の発生を防ぐために、蕪栽培では連作をしません。非効率この上ない在来品種ですが粘り強く取り組んでいきたいですね」。
伊藤氏は米やだだちゃ豆など主力の作物と並行して「藤沢かぶ」の栽培に取り組んでいる。田植えや豆植えで忙しい5月を乗り越え、6月末頃から地ごしらえをし、山焼きが行えるのはお8月の中旬になる。種まきはまだ火がくすぶっている間に行うが、熱によって発芽を促す効果があるらしい。10月になりようやく「藤沢かぶ」は収穫されるが、12月以降、雪が降ってから収穫した蕪は雪の中で保存する農家もいる。「いまはウチだけで1トン程度の収穫ですが、無理をして流通量を増やすつもりはありません。『藤沢かぶ』は傾斜地における山焼きという、伝統的な農法とセットでなければ美味しく綺麗なかたちには育ちませんから」。

山奥の水はけの良い斜面で育てられてきた「藤沢かぶ」と、湿気を好む「湯田川孟宗」は対照的な土を好む作物だと言える。同じエリア内にも、天然の土があり、人が手を加え維持する土がある。また土は単に地質や土壌としてだけでなく、「土地」という問題もはらんでいるし、歴史的な「風土」とも密接に関わりがあるはずだ。さまざまな「土」が息づいている庄内。そして土は未知のエリアであると改めて実感させられた。

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