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村井氏によれば、鳥海山は標高1,500mという低い地点に万年雪が残る、世界で唯一の山とのこと。その理由は「山が水を十分に含んでおり、地面が冷たいから」だという。また、鳥海山の山頂と海の距離は16km。これは、諸島を除けば日本列島でもっとも近い。「遊佐エリアは、急勾配の麓にある平野部です。水害も稀にありますが、半日もすればあっという間に水は消え去ります」と村井氏。
保水力のある土壌が足元に広がり、冷たい伏流水が湧き水として活用できる。そのことは、米づくりにもプラスの影響を与えている。「稲作に冷たい水を用いると収量も落ちるし、稲が病気にかかりやすいという説もあるけれど、このあたりでは冷たい水であるほど美味しい米に育つと言われていますね」と村井氏は語る。また遊佐は、メロンの名産地でもある。江戸時代に植林が開始された海沿いの松林のそばには、30kmに渡って砂丘が広がっているが、水はけの良い砂地に目をつけ、昭和に入って以降、メロン栽培が実施されてきた。その際にも、地下水がスプリンクラーに活用されるなど、遊佐の天然資源が武器になった。遊佐の隣町に位置する酒田市出身の男性によれば、「同じ庄内の中でも、遊佐の農作物はランクが高いイメージがある」という。
もうひとつ、農家に絡んで遊佐特有の文化を紹介しよう。この地域には月光(がっこう)川・日向(にっこう)川が流れているが、鮭の遡上数は2つの河川を合わせると15万匹にものぼる。実に山形県内の95%を占める数だ。村井氏が解説する。「鮭の養殖には大型の孵化槽を用い、卵を二粒重ねる、国内でも珍しい『庄内式』という方法を採っているのですが、その主体者は実は漁師ではなく農家さん。稲刈り後の時期に遡上した鮭を捕獲し、採卵と孵化を行い、稚魚を放流しています。現在、遊佐では3つの組合が鮭の養殖場を運営していますが、歴史を辿れば、酒井の殿さま(庄内藩主)が鮭の保護のために月光川を種川(たねがわ=鮭の自然孵化の場所)に指定したことがはじまりです」。農家が鮭養殖をしていることも驚きだが、その起源が江戸時代の自然保護にあることにも注目すべきだろう。