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石巻水田サポート 2018/12 土が蓄えた貯金 JP EN

【農業継承に関するエピソード】

東北6県の配置を見ると、青森県出身者にとっては、太平洋側の宮城県に移住するのも日本海側の山形県に移住するのもそんなに大差はないのかもしれないと思いました。

田んぼでは米の収穫が最終段階という十月中旬、やっと宮城県石巻市を訪ねることが出来ました。その際に、宮城県の農家で実習を受けた若者が、山形県の農家の事業継承を行うことになったという話を、実習を引き受けていた農家から聞く機会がありました。その農家が言うには、宮城県の当該地域では、事業継承を希望する農家の情報が一元的に管理されておらず、また継承に絡むデリケートな問題の解決をサポートする仕組みが十分でなく、その結果、その若者は山形県へ転出することになったということでした。当地の農業人口を増やそうと、移住者を受け入れて折角いろいろ農業を伝授しても、地元に移住者が根付いてくれないのでは、遣り甲斐も希薄化するから、今の当地の制度を改善して欲しいという趣旨の話を伺った訳です。

尤も、青森県出身のその若者は、まず宮城県でアカデミックに農業を研究した後に、当社も縁のある米農家に師事して実際を学び、良好な子弟関係を維持したまま今度は山形県に移動したのであって、こういった人の交流が大局的には望ましいネットワークを形成していくものとも思えます。

事業継承の話で思い出すのは、今年の4月中旬、仙台市の北方にある篤農家のシイタケ農家を訪ねたときの話です。私を案内して下さったのは、農家支援に日々地道な実直な努力を厭わないコンサルタントであり、その方の話と、篤農家の話を掻い摘んで書くと次のようになります。

即ち、2011年3月11日に発生した東日本大震災による被災で、当地では、シイタケ栽培に使うコナラ、ミズナラが使えなくなってしまいました。窮状を聞いた大分県の心ある方がクヌギを提供してくれました。しかしクヌギでは、東北でのシイタケ栽培は難しい。クヌギでの栽培を断念する農家が多くある中、この農家は、工夫と努力を重ね、諦めず、それは大分への忘恩は断じて許すまじという気迫であるとも思いましたが、今は立派に事業を回復なさった農家を訪ねたときの話です。
丁度、親から息子への事業継承の話題が出て、スムースな代替わりのために、自営業から法人経営に移行するかというイメージを父親は持っていましたが、「法人にすることには不安が多い」という母親の意外に強い調子の意見に合って、当面はこの話題は先送りするという場面に出くわしました。

一般的には、農家を自営から法人経営に変更したり、農業経営を代替わりするには、農地や、納屋や農機や資材、保管している種・豆、在庫の作物、肉用牛、搾乳牛、繫殖牛・豚、また必要経費や損金に算入することを特別に許されて積み立てた準備金を、場合によっては株式を、どういう形で会社とか、次世代に譲り渡すか、使用させるかという問題が底流にあって、そこにかかる税金に対する不安がどこかにあって、非常に神経質な、不安な心持ちが露出してくるのだと思います。

ときに、この農家が栽培したシイタケは春のこの時期でも、肉厚く密度高く、焼いて醤油を落とせば忽ちご馳走になるということで、沢山のお裾分けをいただきました。

ところで最近は、就農を希望する若者が増えてきたようにメディアは伝えています。しかしながら、家族経営の農家に就農する若者からすれば、自分がいくら頑張っても、家族でない以上、その農家では経営者になれる感じがしないということで、意欲が減退することもあるのではないかと思ってしまいます。

その昔、北上川は洪水を繰り返しましたが、川沿いの土地は洪水で栄養を蓄えることも出来たそうです。その後、先達の壮絶な努力によって治水が行われ、水田が拓かれ、今や土地が豊富に蓄えた栄養のおかげで、高評価の米を作り続けている米農家は、「ササニシキは、育つに多くの養分を求めない慎ましやかな稲である。ササニシキをつくっていて土壌が痩せていく感じはしない」と言って、現在の自然農法の持続性に自信を持っています。土地が持続するなら、それを耕す農家も持続しなければ勿体ない。農家の事業継承が無理なく行えるような制度設計乃至は運用をこそ、今の世代が実行しなければ、労苦を耐えた先達に全く顔向けできないのではないかと、そんなことを考えながら、帰京しました。

帰京後、つと山形の農家から電話があって、さっき訪ねてきた銀行の職員が「この天候不順にあってもお宅の米は良い出来だ。土が蓄えた貯金のおかげだね」という話をして帰ったということを聞きました。土は蓄える。このことをもっと考えてみたいと思います。

【収穫本番を迎えた米農家】

10月中旬。石巻の水田では、すっかり刈り取りが終わった他の農家の田んぼをよそに、ここの農家ではこれからが稲刈りの本番です。全体に遅く始めて遅く終わる田んぼ仕事が、ここの農家の周年スケジュールです。先を急ぐばかりが能じゃないとばかりに。

遠くには、刈り取りが終わったどこかの農家の田んぼに、白い円筒形の物体が並んでいて、訊くと「飼料米」だそうです。他方にはまた、大豆を植えている圃場もあって、それは「米・麦・大豆」の輪作を行って省力効率化を図っている農家だそうです。

しかしここの農家では一途に、ササニシキを、無農薬無肥料で作り続けています。収穫した米の乾燥具合にも細心の注意を払っています。一気に水分を抜くことの功罪、水分を留保することの良し悪し。
しかし、そうやって作った米であっても未だ改良点は残ります。秋に収穫された米は、冬・春・夏を越してくると、やはり生もの、味が劣化してきます。この米農家では、これを予防するストックの方法を考案中だそうです。そして当社もその実現にささやか乍ら協力をしています。

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