オフィスマルベリー

山菜、そしてサクラマス。旬の食材で胃を満たす。

庄内の春の食卓を彩るのは、何と言っても山菜だ。月山筍、こしあぶら、たらの芽、こごみ、わらび。多くの山菜はアク取りなどの下処理で苦戦するものと思われがちだが、それは産地と離れた場所に輸送され、時間が経過した場合のこと。採れたての山菜は、ほとんど下処理は不要。てんぷらにしても、おひたしにしても、爽やかで甘く、実に美味だ。

また、春の風物詩として知られるのが、山形県の魚としても知られるサケ目サケ科のサクラマス。渓流釣りで人気のヤマメの別名だが、川を下って日本海やオホーツク海を回遊した後、再び桜の開花時期である春頃に最上川や赤川に戻ってくるのである(酒田では遡上したサクラマスを特に「川マス」と呼ぶ)。不思議なことに、淡水に生息するヤマメの体には斑点があるが、海に移動したサクラマスでは斑点が消え、全身が銀色になるのだという。 回帰率が極めて低いこともあり、もともと漁獲高は高くないのだが、近年さらに数が減ってきているまさに幻の高級魚だ。鶴岡市内でこのサクラマスを提供している寿司店・芝楽の店主によれば、「サクラマスは希少なため、この地域の寿司屋では5店舗でしか提供していません。しかも、それぞれが日程をずらしながら、限りある地元の食材を分け合っている状況です」とのこと。

芝楽では、サクラマスの切り身を素焼きで出していただいた。見た目は鮭とほとんど同じと言っていいサーモンピンク。だが、その味はまったくの別物である。まず脂の乗り方がしっかりしているのに、しつこさがない。口の中でほぐれるような鮭の柔らかさと異なり、身が引き締まっているのも特徴だろう。噛むほどに味わいに濃厚さが増し、飲み込む瞬間までさっぱりした脂が消えない。4〜5月にだけ口にできる、期間限定・地域限定の旬の味。古くから庄内の春の祭りに欠かせないご馳走だったサクラマスは、新しい季節の訪れを告げるシンボルなのである。

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